「豊かさって何だろう?」
近代、国をあげてこの問いに取り組んだのが戦後の焼け野が原になった日本の人々でした。その当時の人々が考えたこれからの国のカタチや、人の幸せは何だったのか?戦後から66年を経た現在の日本は、もう一度この問いに直面する時期を迎えています。
景気の低迷、高齢化社会など不透明な未来へ漠然とした不安が蔓延していた日本は、今回、東日本大震災という災害に見舞われました。まだ大きく残る爪痕の中、今後国を上げて復興していかなければなりません。またこの震災をキッカケに「自分にとって本当に大切なものはなんだろう。」と自身に目を向けた方も多いと思います。
時代の大きな転換期を迎えた日本で、“住”の業界を担う私たちは、自分たちが生きる今、そして未来に向けて、この問いに立ち返りました。「本当の豊かさってなんだろう?」
「これまでの時代と過去型の家」
「豊かさ」の答えを導くまえに、すこし日本の“住”の業界の歴史を振り返ってみましょう。
戦後何もなくなってしまった世界で、 何をどうすればいいのかというところから、日本はスタートしました。 住む場所、食べるものもままならない、どんな国を作っていくべきなのか…当時は不安だらけだったことでしょう。
そんな中で日本人が考えた末に辿り着いた、日本人の幸せ•豊かさの原点は「家族」にありました。家族みんなが、安心して一緒にいる場所を確保することでした。 それが「一世帯一住宅」という政策です。 「一つの家族に一つの家」が合い言葉になりました。そして、国を挙げてこの実現に取り組んだのです。
その結果、1973年にこの目標が達成されます。どんどん家を建て「とりあえず家」という願いは叶いました。ですから政策は本来であればココで止めてよかったのです。
しかし、それからもずっと家を造り続けてきた結果、「量の時代」が続いていったのです。それは2006年の住生活基本法の施行まで続きました。
「ターニングポイント」
2006年の住生活基本法の施行により、日本は初めて「これからの住宅は量は建てなくていい。質のいいものを建てる。」ということが法律で決められたのでした。つまり、この2006年において私たちを取り巻く世界のカタチとルールが変わったのです。
加えて現在の日本は、今までに体験したことの無い全く新しい世界の入り口に立っています。それが「人口が減少していく世界」なのです。
今までは人口増加が続き、それに伴い全てのものが拡大再生産されていく世界でした。これからは、それと全く逆のことがおこります。人口の減少に伴い、市場、経済など全てが縮小していく世界です。「量より質」「人口減少」この二つのキーワードが根底にある未来では、私たち工務店には何が求められ、何を提供できるのか…。これが私たちのぶつかった最大の課題となりました。
「これから時代と求められる家」
今までの家は、質より量の常識の中で消費されてきました。しかしその時代はもう終わります。
人口減少に伴い、ものを大切に使っていくという世界が訪れた時、品質の高い物が選ばれ、住まいも世代を超えて長く使われることが求められます。また日本全体の経済が縮小していく中では、生活コストを賢く抑え、既存のものをうまく循環させていく「ストック型」の家作りを進めていく必要があります。
これまでの家は、統計上のデータでは寿命が30年と言われてきました。勿論、長く住み続けられてきた家もありますが、平均30年の寿命と言われてきたのは、一世代ごとに家を建て替えるという社会を反映した結果だと言えます。人口が増え続ける世界で当たり前だったことが、これからの世界では資源とエネルギーがかかりすぎてしまい、そこに住まう人たちの生活を脅かしてしまうのです。
品質の良い家を建て、優れたメンテナンスや維持管理を行うことで、例えば家の寿命が90年になれば、三世代に渡って住み継ぐことが出来ます。そうすることで子供や、孫たちの世代で、ただ家を手に入れるためだけに使わざるを得なかったお金を、よりよく生きていくために使うことが出来るのです。それこそが今からの日本が目指していく未来であり「真の豊かさ」ではないでしょうか。
国もストック型社会に向けて歩き始めています。勿論、家を建てる側の私たちも、自分が建てた家が可愛い。想いを込めて建てた家だから、ずっと守り続けていきたい…そのためには真に次の世代に家を渡していける優れた維持管理システムを提供することが、プロフェッショナルとしてのこれからの在り方だと考えました。
長く住み継がれていく「家」という存在は、家族が集い、人の想いが積もっていく場所、大事な人がいたという思い出が残る場所です。自分が居なくなったとしても、家族や世代を超えて子供たちを見守り続ける存在として「家」があったら…少しロマンチックな想像かもしれませんが、そんな「幸せで豊かな場所」を私たちが作れたら、こんなに嬉しいことはありません。
「自分以外の大切な誰かの為に家を建てたい」そんな想いを持つ人たちの家作りを、私たちはお手伝いしてきました。家作りは、奥さんのため、ご主人のため、子供のため、両親のため。自分以外の誰かのために頑張る素敵なことです。
これからは、まだ会ったことのない誰かが、自分の建てた家を引き継ぐことになるかもしれません。家族という近しい人だけではなく「家」を通して繋がる誰かのため、そんな大きな世界観で家作りを考える時代がきています。世代を超えて、家族を超えて、未来が描ける「家」を私たちは提供したいのです。
「自分たちが生きていく場所~なぜ九州の家だったのか~」
私たちは「日本」の住まいの歴史を振り返り、これからの未来とそこに必要とされる家を思い描きました。「思い描いたその次に私たちにできることはなんだろうか?日本全体のことを考えながら、同時に自分たちが生かされている地域のことを考えることではないか?その地域の今や未来について考えるのは誰にでも出来ることだろうか?そこで生活し、向き合い、想いを込めている自分たちにしか、本当に考えることはできない。そんな私たちは地域にとって必要な存在なんだ。私たちにしか出来ない家作りがあるはずだ。」それが今の自分たちが立っている場所だと認識しました。
「そこに住む人たちと共に生きていきたい。そして子どもたちに胸を張って残せる町にしたい。」私たちはここから一歩を踏み出します。一つ一つの工務店の力は小さく、世界を変える程ではないかもしれない。でも、そんな想いを持った九州中の仲間が集まれば、きっと出来ることがある。自分たちと同じ場所で生きる人たちが豊かに暮らす、そのための最高の家を届けたい。
そして時が流れ、世代を超えてその家が受け継がれる時に、子供たちの幸せの手助けになれば、もっと嬉しい。そんな想いの先に「豊かな日本」があると信じたい。
「九州の家プロジェクト」
九州で生きる家作りのプロフェッショナルたちが静かな闘志を胸に、九州を、そして九州から変えていきます。